アンラッキー王子

今月頭、お客さんが会社に来たので昼食を出すことになった。

上司がキッチンカーのカレーにしようと言った。

お昼の時間になると、会社の近くの駐車場に数台のキッチンカーが来る。

そのキッチンカーたちの1つに我が社お馴染みのタイカレーの店がある。

僕は辛いのが苦手で、そこのカレーを食べると汗が半端ないが、
それでもみんなが好んでるわけがわかるくらいには美味しい店である。


僕は上司の言うようにキッチンカーが集う駐車場へ買い出しに行った。

しかし、その日タイカレー屋は来ていなかった。

内心ほっとしながら上司に電話で伝えると、「じゃあ他のキッチンカーで良いよ」と返答があった。

そこに来ていたのは、普通のお弁当・インド料理・韓国料理・オーガニックカレーの4店。

なかなかの海外率。

僕は気を利かせた。
きっと上司はカレーの口になっているはず。

オーガニックカレーを買って会社に戻った。

カレーを上司に預け、2~3分ほど野暮用で部屋を離れた。

野暮用を終え部屋に戻ると、すでに食べ始めていた上司が僕に言った。


「本田くん、このカレーめちゃくちゃ不評だよ。」


正直知らねえよと思った。

お前がキッチンカーで良いって言ったんだろうがと思った。

カレーでそこまで不味くなることなんかない、これは僕への当て付けだと思った。
もしくはいつものタイカレーのハードルを越えられなかっただけだと。


まっず。


カレーはそこまで不味くなることができた。

カレーのポテンシャルは無限大だった。

小学校の自然教室、僕を含め料理なんてしたことないクラスメイトたちで作ったカレー。

それでも美味しかったカレー。

辛いのが苦手な僕が汗を流しながら食べたカレー。

それでも美味しかったカレー。

そうか、お前は不味くなれたんだな。。。


まず何よりも米が不味い。

なんか日本の米じゃないしパッサパサ。

そしてルーもドライカレーでパッサパサ。

パッサパサとパッサパサ。

灯台下暗しだった。

なるほど、カレーを不味くするには米から攻めればいいんだな。


世の中に絶対なんてものはない。

そう知らしめられた昼食の話。




で、終わればまだ良かった。




後日、経理に領収書を回すと返ってきた。


「手書きの領収書には住所と印鑑が必要です。」


やっぱりかぁ、なんか物足りない気がしてたんだよなぁ。

昼時、僕はまたキッチンカーの集う駐車場へ領収書をもらいなおしに行った。

しかし、オーガニックカレーはいなかった。

次の日の昼時にも行った。

しかしまたもいなかった。


僕は領収書に書かれていた店の名前を検索し、出店スケジュールを調べた。

驚いた。

今月会社近くの駐車場に来るのは、僕が買ったその日だけだった。

こんな不幸な偶然ってあるんだ。

キッチンカーの集う駐車場に行ったのは半年ぶり、たまたまその日と1ヶ月中1回の出店が被り、
4つある店からたまたま選ばれた。そしてたまたまクソ不味く、たまたま不備のある領収書。


たまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたま



残された道は2つ。

平日に社用車で会社を抜け出し、別の場所で出店しているとこにもらいにいく。
23日(祝)、家から9km離れた山の上で出店しているとこに自転車でもらいにく。

今月はめちゃくちゃ仕事が忙しく、平日会社を抜け出す暇はなかった。

実質残された道は一択。

23日(祝)、家から9km離れた山の上で出店しているとこに自転車でもらいにくことになった。


当日朝、重い腰が上がらねえ。

モチベーションの持って行き場所が見つからない。

これが美味しい店ならついでに食べてこうとなるが、如何せん不味いのでそれもない。

知らない場所ならサイクリングの一環として楽しむこともできたろう。
しかし、この山は去年友達と自転車で行って、キツすぎて「二度とこねえ」と後悔した記憶がばっちり残っている。

あとはこれをきっかけに恋が始まるくらいだが、24年生きてきて分かる。それは絶対ない。

2000円ちょいくらい手出しでいいかと思ったが、すでに経理に領収書を見せてしまっているので、
なかったことにするのはそれはそれでめんどくさい。

タクシーで行こうかとも考えた。
でも2000円の領収書をもらい直すために往復10,000円使うのは流石に気がひけた。


そんなこんなで泣く泣く自転車で領収書をもらってきた。

やっぱりキツかったぁ。

その場で気づけば一瞬で済むことなのに、後になると多大な労力がかかる。

ミスって大概そんなもの。

領収書をもらいなおしたい旨を店の人に伝えた時、「わざわざこんなとこまで来ていただいてすみません」
ということでシフォンケーキをくれた。

このシフォンケーキを、この不幸な旅の意味ということにしよう。

そう自分に言い聞かせ食べた。


シフォンケーキもあまり美味しくなかった。


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